文鳥社とカラスの社長のノート

株式会社文鳥社/ 株式会社カラス のバードグループ代表をやっています。文鳥文庫を売ったりもしています。

『マーケティング・センス』の磨き方。

たまには自分がいる会社について語ろうと思う。いつの間にか会社に入って6年がたち、この会社のこともよく理解できてきた年頃になった気がします。就活の時期ですし、会社の宣伝になりますように。

 

結論から入ると、博報堂という会社の最大の魅力は「クリエイター」と呼ばれる人間が社内にウロウロウジャウジャしていることにある。デザイナー/コピーライター/CMプランナー/アートディレクター/クリエイティブディレクターなどがいて、みんなそれぞれ面白いのだけど、中でも、美大出身の「デザイナー」を150人くらい抱えていることが、社内外における最大の魅力であり、価値だと僕は考えている。

 

博報堂は、世間で言う高学歴な人が多い。東大も慶応も早稲田も全体の1割くらいずついる(たぶん)。彼ら(彼女ら)も、すばらしい力をもっているには違いない。でもそれらの存在も、美大卒のデザイナーの価値には遠くおよばない。東大も慶応も早稲田も交換可能だが、デザイナーはそれが難しい。ゼッタイ数にしても、可能性にしても、絶大な希少価値を持っている。

 

そこに何の魅力があるのかと、ざっくり言えば、「ビジネス的なもの」と「アート的なもの」が本質的に融合した部分を楽しめることにある。大京大早稲田慶応…そういった大学をでた人たちと、デザイナーが日々同じテーブルを囲んで打ち合せを繰り返す。そうすると、まともな人間であれば、必然的にデザイン思考がインプットされるし、結果、普通の打ち合せでは生まれないアイデアやアウトプットが実現できる。

 

スティーブ・ジョブズが昔、

「スタンフォード大学にいくのもいいけど、パリにいって数年の間、詩を学んだりすることを強く薦めたい

 というようなことを言っている(意訳)。

 

アートなんてビジネスに役にたたない趣味・道楽でしょ?と極端な人は思うかもしれないけど、それはゼッタイに違う。 ジョブズは「パリで詩を学ぶこと得られる〔何か〕が、これからのビジネスに役にたつ」と言ってるわけだけど、確かにそれは今の日本で理解されづらい考え方かもしれない。それはたぶん、理屈的な正しさや合理性を越えたところにある。とても肉体的であり、感覚的であり、情緒的なものだ。それらは、音楽や詩やアートや物語から学ぶことができる(学問もアートだけど)。 おそらく、ジョブズは音楽とタイポからそれを学んだし、ウォルト・ディズニーは自ら絵を描くとで学んだ。つまり、ビジネスマンが詩や音楽や絵を学ぶことは、「マーケティング・センス」を磨くことに他ならない。

 

どれだけ広くリサーチをし、どれだけ正しく分析し、どれだけ多くの機能を取りいれたプロダクトでも、結局は最後の見た目と手触りで命運が分かれることになる。iPodiMacが他のメーカーと違うのは、あの流線型とマットな質感の中に、すべての機能を閉じ込めていることにある。もちろんiTunesのような仕組みもすばらしいが、結局最後の見た目や手触りへのこだわりに、他のメーカーと大きな差があると僕は考えている。

 

経済やビジネスと、アート(感性)的なものは、ものすごく複雑に密接に絡み合っているにも関わらず、蔑ろにされている気がしてならない。さらに愚痴をこぼせば、日本のビジネス界に圧倒的に足りていないのは、この力だと思う。「ロゴなんて、3万円でネットで外注して、人件費の安い国でつくればいいんだ」というような発言を、有名な起業家がしたりするのを見ていると、とても悲しい気持ちになる。だからあなたはその程度なのですよ、と言いたくなる。経営者が自分でできなくても、その必要性に気づいている人たちが増えてきている傾向もある。ユニクロの柳井さんがジョン・ジェイをパートナーに起用したり、ソフトバンクの孫さんは「そうだ京都いこう」の佐々木宏を近くに置いているように。でもそういった経営者もまだ少数だと思う。

 

残念なことに、博報堂の内部の人でもそういった思考を持っていない人もいる。逆に言えば、日本のビジネス界に足りていないからこそ、この会社のこれからは面白い。単純な話、そのデザイナーの力を活かしきれていないからだ。彼らを武器に、どうスケールするビジネスを創っていけるか。最近の自分の興味は完全にそこにあり、そういうことにチャレンジしていけたらとても楽しいと思うし、日本社会の貢献にもっとつながると考えている。 

そういう意味で、ひょんなことから、博報堂のクリエイティブに配属されて、得る物はとても大きかった。これからはそれを活かしてアウトプットするフェーズだと考えております。

 

最後にひとつ、本の紹介をしたいと思います。

そんな博報堂で40年間、クリエイティブ畑を歩んだ名クリエイティブディレクターの大先輩がさいきん書いた本です。「マーケティング・センス」という言葉に、この記事で書いた要素がほぼふくまれています。ビジネスだろうと、すべてはセンス=感性。分析もセンスだし、プレゼンもセンス。しかしセンスは磨くことができる。そういったことが実際に筆者が博報堂で経験した事例をもとに書かれています。気軽に読めるのでぜひみなさんどうぞ。とくに就活生で広告業界に興味ある人は、本当におすすめですよ。 

 

マーケティング・センスの磨き方 (マイナビ新書)

マーケティング・センスの磨き方 (マイナビ新書)

 

 

 

とりあえず以上です。